No.116
【天文】衛星の衛星
衛星に衛星って無いの?
衛星というと、つい先日ニューホライズンズの観測により冥王星の衛星カロンが高解像度で撮影されたのが記憶に新しい。(厳密には冥王星とカロンは二重準惑星系と呼ぶべきか)
太陽系では水星と金星を除く全ての惑星に衛星があり、灼熱、氷結、岩石など様々な姿を楽しませてくれている。また、小惑星にも衛星が観測されており、衛星が普遍的な存在であることが分かる。
ところが、「衛星の衛星」という話は一切聞かない。惑星である水星のより大きな衛星(ガニメデなど)であっても、だ。
以下、衛星の適宜から含め「衛星の衛星」について考察してみる。
定義の確認
国際天文学連合(IAU:International Astronomical Union)が2006年に発表したペーパーでは、「惑星の衛星」として以下のように適宜がなされている。(※冥王星が惑星から準惑星になった会議の資料)
Planet Definition” Questions & Answers Sheet
Q: What is a “satellite” of a planet?
A: For a body that is large enough (massive enough) to satisfy the definition of “planet”, an object in orbit around the planet is called a “satellite” of the planet if the point that represents their common centre of gravity (called the “barycentre”) is located inside the surface of the planet.
ざっくり言うと「大きな質量を持つ惑星の周りを周回し、共通重心が惑星の中にある天体」とある。
衛星は小惑星などにも存在するため、惑星という言葉を一般的に置き換えるとこう言うことができるだろう。
ある大きな質量の主たる物体の周りを周回し、共通重心が主たる物体の中にある天体
重力圏の問題
上記の定義により、衛星の衛星が存在するためには以下の条件が必要となる。
- ①太陽の重力の影響を受けない。
- ②自身の存在する系の主たる物体が周回している物体の重力の影響を受けない。
- ③自身の存在する系の主たる物体の中に共通重心がある。
- ④自身の存在する系の主たる物体を周回している。
①はそもそも衛星が主たる惑星のヒル球内に存在するのでクリアしている。
②は自身の存在する系の主たる物体が周回している物体、つまり惑星の重力の影響を受けないということである。③は自身の存在する系の主たる物体、つまり衛星のヒル球内に存在するということになる。
よって汎用的な定義は以下になるだろう。
主たる物体の周りを周回し、主たる物体のヒル球内に軌道が存在し、共通重心が主たる物体の中にある天体
※ヒル球とは簡単に言うと「主たる物体の重力により他の物体の重力を無視できる圏内」と考えればOK。
ヒル球
結論
上記の定義により、必然的に衛星の衛星は「主星の重力の影響を受けないほど小さく、衛星に近い軌道を回っている」必要がある。
つまり衛星の衛星を見つけるためには、小型の天体すら写せる高解像度の望遠鏡を使う必要があり、継続もしくは定期的に監視を行う必要がある。天文学において高解像度の望遠鏡のリソースは奪い合い状態なので、余程のことがない限り望遠鏡利用の申請は通らないと思われる。
現状では、せいぜいイオやエウロパ、カリストやエンケラドスなどの注目を集めている衛星に対して地球から高解像度で撮影を行ったときか、探査機が近くを通り過ぎたときに撮影した写真などから探し出すしかないのではないかと思われる。
よって、現状では
衛星の衛星は存在する可能性がある。
ただし、現状では観測側の問題で発見されていない。
ということになるだろう。