No.50
【地質学】【雑学】メルトスルーした燃料の将来
メルトスルーした燃料がマントルに到達したらどうなんの?
という話を突然友人に振られた。福島の原発事故の時にさんざんテレビであおられたり、映画の「チャイナ・シンドローム」で有名になったアレだ。
結論から言えば何も起きないと思う。よく「マントルとの境界層で核爆発が起きて放射能を含んだマグマが噴出して大惨事」とか煽ってる人もいるけど映画の見過ぎだと思う。
以下、ウラン燃料がマントルに辿り着くまでの苦難の道を考察してみる。
地殻
まず立ちはだかるのは地球の地殻。地殻は大陸部では30km~60kmくらいで山脈の下とかは100km越えの地域もある。参考までに海洋部だと6kmくらいしかない。
熱で周囲を溶かしながら地殻を掘り進んでいくウラン燃料。地殻には様々な物質がある。堅い物もあれば軟らかい物、様々な物が立ちはだかりウラン燃料の行く手を遮るだろう。そのたびにウラン燃料は停滞したり進路を変えられたりしながら進んでいく。進む距離が長ければ長いほど周囲の岩盤との摩擦で少しずつウラン燃料の体積は失われていく。しかし、それを言ってしまうと始まらないので本考察では摩擦による損失分は考慮しないものとしよう。同様に熱などによる組成の変化も考慮しないものとする。
地殻を掘り進む途中で核爆発が起きないかって? おそらく核爆発は起きないのではないかと思う。理由は原子炉で使われているのは低濃縮ウラン燃料であり、ウランの含有量は多くても20%に満たないから。福島などの軽水炉では濃度は2~5%と推測される。この濃度では核分裂連鎖反応を維持できないので、発生するのは崩壊熱だけ。核分裂連鎖反応による膨大なエネルギーがないと核爆発は起きないのだ。
地殻の圧力により高圧になる場合は臨界量が減るので、充分な量があれば臨界量に達して核分裂連鎖反応が起きるかもしれない。
この場合、爆発的なエネルギーが発生するかはその燃料の形状による。形状が完全な球体で全方向からの圧力が均一であり、連鎖反応が均一に起こらないと、最初の放出エネルギーで自分自身を分解してしまうからだ。
仮に爆発的なエネルギー放出が行われ爆発したとする。爆発のエネルギーで生まれた熱や蒸発した岩盤の成分(水や岩石の上記)は隣接する隙間を通って吹き抜けていくと思われる。ウラン燃料が通ってきた穴は地殻の膨大な圧力でふさがっていると思うが、何らかの影響は伝わるかもしれない。運悪く爆発した場所がマグマだまりの近くだったら何らかの刺激になる可能性はあるだろう。
マントル
地殻を掘り進んでマントルまで到達した根性あるウラン燃料は新たな道を進む事になる。
よく勘違いしてる人がいるけど、マントルは柔らかくない。あくまでも高温高圧の個体(主に岩石)であって、水を含み柔らかくなったマグマとは違う。だから、マントルに到達したからといって、ウラン燃料の通った道を辿って溶岩が吹き出すことはない。ご安心を。
上部マントルの温度は1000度。それに対してウラン燃料の融点は2800度といわれている。だからすぐには溶けない。比重が重いウラン燃料はマントルの対流にもてあそばれながら、今までと同じように少しずつ沈んでいくのだろう。
核との境界に近づくにつれ温度はどんどん上昇していき、最終的には3000~5000度という高温になる。ついに英雄はその身体を休め、溶けて地球と一体化し、永遠の眠りにつくのだ。辿り着けばだけど。
残念ながらウラン燃料の旅はここで終わり。外核、内核を貫通して地球の反対側に突き抜けることもない。残念。